私が人材メディアの事業から中古車メディアの事業に異動したとき、驚いたことがあります。それは、営業がクライアントへ訪問する際にアポイントメントの時間を正確に決めずに訪問することが結構あること。「大体〇時くらいに伺いますねー」とか「今から行っていいですか?」くらいの緩いアポ。
それまで、正確にアポの時間を決めて5分前には到着。頂いた時間の中で商談を収めて効率よく営業活動をしていくべし!が当たり前だったので、「なんで?なんて緩いの?」とびっくりしたものです。
周りの営業に聞くと、「車での営業なんで、道路事情でかなり時間がブレるし」「お客さんも急に店舗から外出したりして、逆に直前に聞く方がいいんですよ」と。
地方に行けば行くほどこのあたりの感覚は緩くて、当初予定していた訪問時間がズレても「道路が混んでたから仕方ないよね」。クライアントも営業もお互い様の感覚です。
「いやいや、それはそうとしても、やっぱり営業効率を上げることを考えたらもっと確実に訪問件数を増やせる方法を考えないとあかんやろ!」って事業全体で色々取り組んだ訳です。結果として現在の中古車メディア事業の営業行動はかなり行動精度が上がり訪問総量も15年前に比べると格段にUPしています。
しかし。
ふと立ち止まって振り返ってみると、この「仕方ない」で生じていた「一見無駄な時間」は本当に「無駄な時間」だったのでしょうか?
もちろん、ついついサボってしまう時間もありました。私自身。
でも一方で、アポがうまくハマらずに急に浮いた時間で、営業同士が電話で情報交換したり、
「いま、どんな感じー?」なんて癒し合ったり励まし合ったりなんてことも自然にやっていました。
多くの人はそれほど不真面目でもなく、「仕方なく」できた時間でコミュニケーションを取り合って、互いへの連帯感や仕事がしやすい関係を作っていました。
「仕方なく」できてしまう時間の使い方が、「自由」だからこそ、意外に「どう使うか?」をそれぞれなりに工夫していた。これって「主体的」ですよね?
私が仕事を始めた頃、まだ携帯もPCもさほど普及していませんでした。
仕事の中に「仕方ないよね」がたくさん溢れていました。
その「仕方なく」できたある種の「ゆとりの時間」を「関係の質」や「思考の質」を高める時間に充てていました。その方が、お互いに仕事がしやすくなるから。
それから20数年が経ち、私たちは仕事の現場から「仕方ない」を追放するために様々な技術革新を続けてきました。
そして、時間を可能な限り「成果・結果を変えるための行動」だけに集中投入できるようにしてきました。
その結果、生産性向上の可能性と引き換えに以下のようなことも起こっていませんか?
もはや「仕方ない」は許されない ⇔ かなり緊張感の高い時間が続く
時間あたりに流れ込んでくる情報量が激増 ⇔ 常に集中力を高く維持し続ける必要
切れ目のない行動 ⇔ 息つく暇・振り返る暇なく反応的に行動し続ける
⇔ 他者の状況に関わっている暇なく自分の行動に集中
これ、ロボットならば平気なことですが、人間にとってはかなりしんどい状況ですよね。
真面目な人ほど、飛んでくる仕事のタマに反応し続けて視野狭窄になり孤立しがち。
人間として数千年なじんできた時間感覚が、たった20数年で急激に変化してきているんですから、心身に不調をきたしたとしてもおかしくない。
とはいえ、ビジネスの現場でこの現実から降りることはもはや不可能だとすれば、
私たちは一体どうすればいいのでしょうか?
私はひとつの解として、「時間の使い方を自らデザインする意志」を強く持つことをお勧めします。特に、組織の結節点で仕事が多方面から流れ込んでくるミドルマネジメントの皆さんに。
「なんとなく」仕事に反応的に対処し続けると、切れ目のない反射行動の日々で疲弊してしまいます。場合によっては自分が何者かすらわからなくなる。
そうではなく、勇気を持って「この時間はひとりで振り返る時間」「この時間はメンバーと業務に限らずコミュニケーションをとる時間」など、自分・仲間との関係・仕事の環境を整えるための大切な時間をあらかじめ「確保」し「死守」する。
そして、この大切な限られた時間を効果的な時間にするための「スキル」を磨く。
そうやって、自分自身の軸を明確にしたり、仲間とのつながりを意図的に確保することによって「自己効力感」を感じられる環境を作っていくことで、孤立感や疲弊感が緩和されるようにしていくことが大切です。
もはや「仕方なく」ゆとりの時間が生まれてしまうことはないのですから。