若手の「早期離職」を防ぐには?シリーズの第4回です。
ここまで以下の点を見てきました。
①社会環境的に職場を離れる観点で「ペイン<ゲイン」が進んでおり、
今の職場で過ごす観点で「ペイン>ゲイン」であれば、若手が離職を選ぶのは当たり前。
今の職場で過ごす観点で「ペインを低減させ」「ゲインを増大させる」具体的・組織的な取り組みが必要。
②職場で過ごす観点での「ペイン」の大きな要素が「人間関係」。
そして、職場に新たに参入する「若手」の人間関係に関するストレス耐性が、生育環境の変化によって年々低下している。
つまり、「ひと昔前の若手」よりも「今の若手」は、より「人間関係をペインと感じやすい」状況が生まれている。
よって、今の若手が職場に参入する際には、「人間関係に関するワクチン」を打っておく必要がある。
③「人間関係」が「ペイン」となるもう一つの要素が「受け入れ側の上司・先輩」。
「上司・先輩」が、「良かれ」と思って行う「成功体験の伝承」が「個性の違いへの無自覚」を引き起こし、
場合によって若手にとっては「ペイン」となる。
「関係の質」を高めるために投じることのできる「時間」はどんどん削られていることと相まって、「すれ違い」が大きくなる。
よって、上司・先輩側には
「短時間で互いの違いを理解・受容できる機会や方法論」(新入社員の個性を的確に見るメガネをかける)が必要になる。
さて、ここまでは職場で過ごす観点での「ペインの低減」に軸足を置いてお伝えしてきましたが、今回は「ゲインを増大させる」点に目を移して「若手の早期離職を防ぐ」を考えてみましょう。
◆ 職場で得られる「ゲイン」は何か?
職場で仲間とともに働くことで得ているもの・喜びは何でしょうか?
報酬、地位、権限、大きなフィールド、やりがい、経験・知識、キャリア、仲間などなど多岐にわたりますね。
ちょうど先のブログでお話しした、「離職の理由」の裏返しだったりもします。
得ているもの=ゲインを考える際に重要なのは、「外発的動機を刺激するもの」か「内発的動機を刺激するもの」かという視点です。
外発的動機を刺激するものとは、「他者から与えられることによって、動機付けを促すもの」。
例えば、報酬や評価、地位などです。
一方、内発的動機を刺激するものとは、「自らの内側から湧きおこる動機付けを促すもの」。他者からの承認や称賛、達成感や有用感などです。
外発的動機を刺激する報酬や評価は、与え続けなければゲインとなりません。しかし、事業環境や収益、ビジネスモデルなどによって与えることができたりできなかったりします。
業績が良い時に「高い報酬」だけで「ゲイン」を与えていると、業績が悪くなって報酬を下げざるを得ない時にはこれまでゲインだったものが一気にペインに転じるといったことが起きます。そしてバタバタ人が辞めるなんてケースも。
状況の変化に左右されずに、継続的に「ゲイン」を感じ続けて貰うためには「内発的動機を刺激する」ことによる「ゲイン」を意識的に増大させることを考えることが重要なのです。
では、内発的動機を刺激することによる「ゲイン」とは何か?
これを考える際には、昨今よく人事上の話題になる「エンゲージメント」の視点が役に立ちます。
エンゲージメントとは、「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」という意味合いで使われており、その結びつきの強さを測る指標として各種の「エンゲージメントサーベイ」が開発されています。
このエンゲージメントサーベイの内容を具体的に知ることで、内発的動機を刺激することによる「ゲイン」とは何か?見えてきます。
◆米国ギャラップ社のエンゲージメントサーベイ は何を測っているか?
人事の領域で「エンゲージメント」が注目されるようになったのは、このギャラップ社のエンゲージメント調査の発表が大きなきっかけとなっています。
では、そのギャラップ社では何を測っているのでしょうか?重要な質問項目として以下の12個の質問を抽出しています。
1 上司または職場の誰かが、自分をひとりの人間として気にかけてくれているようだ
2 職場の誰かが自分の成長を促してくれる
3 職場で自分の意見が尊重されているようだ
4 職場に親友がいる
5 会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる
6 職場で自分が何を期待されているのかを知っている
7 仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている
8 職場で最も得意なことをする機会を毎日与えられている
9 この7日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした
10 職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている
11 この6カ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた
12 この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった
さて、この12個の質問、大きく3つのカテゴリに分類できることが判ります。
カテゴリ① 「関係性」に関する質問→ 1~4
カテゴリ② 「貢献感」に関する質問→ 5~9
カテゴリ③ 「成長感」に関する質問→10~12
つまり、内発的動機付けを刺激する重要なゲインは、大きく以下の3つであることが判ります。
①安心・安全で「自分らしくいられる」人間関係によるゲイン(喜び)
②自社は社会にとって必要な存在であり、かつ自分は会社にとって必要で役に立てている・活かされていると感じられるゲイン(喜び)
③自分は日々変化・成長できていると感じられるゲイン(喜び)
若手の「早期離職」を防ぐには?①のブログで書きましたが、
リクルートに入社した当初「3年で辞める」と考えていた私が、結果的に20年弱をリクルートで過ごした理由はまさにこの3つにあります。
リクルートには、この3つのゲインを「生み出す仕組み・風土」「感じやすい仕組み・風土」が意識的に盛り込まれています。
さらには、この状態を意図的継続的に生みだす方法を考え、実行するのがマネージャーの重要な役割なのです。
マネージャーがこの重要な役割を認識して、「では、どのように実践するか?」を具体的に体得していくプログラムが「ひとマネジメントスキルトレーニング」なのですが、それはさておき、
3つのゲインのうち「人間関係」に関しては大きなペインにもゲインにもなり得るという点で最も重要だという事がわかります。
先のブログに述べた、
●新入社員に対してあらかじめ人間関係の「ワクチン」を打つこと
●受け入れる上司・先輩に「新入社員の個性を的確に見るメガネ」をかけること
に加えて、上司にひとマネジメントスキルを体得して頂ければ、「人間関係」にまつわるペインをゲインに転じることができます。
これで若手の早期離職の問題は大きく改善されます。
実際、一時期急激に離職が増えた我々のクライアントでは、以上に述べた視点で手を打つことでここ数年離職ゼロを実現しています。
さらに加えて、貢献感や成長感をどのように育んでいくか?
そのポイントを次回のブログで探求してみたいと思います。