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リモートワークでリスク急増!若手の「早期離職」を防ぐには?③

若手の「早期離職」を防ぐには?シリーズの第3回です。

ここまで以下の点を見てきました。

 

①社会環境的に職場を離れる観点で「ペイン<ゲイン」が進んでおり、今の職場で過ごす観点で「ペイン>ゲイン」であれば、若手が離職を選ぶのは当たり前。今の職場で過ごす観点で「ペインを低減させ」「ゲインを増大させる」具体的・組織的な取り組みが必要。職場で過ごす観点での「ペイン」の大きな要素が「人間関係」。

②そして、職場に新たに参入する「若手」の人間関係に関するストレス耐性が、生育環境の変化によって年々低下している。つまり、「ひと昔前の若手」よりも「今の若手」は、より「人間関係をペインと感じやすい」状況が生まれている。よって、今の若手が職場に参入する際には、「人間関係に関するワクチン」を打っておく必要がある。

 

さて、前回は視点を新入社員の側に置きましたが、今回は彼らを受け容れる「職場の上司・先輩」側の視点で「人間関係に関するペイン」が発生しがちな要因と対策を考えていきましょう。

 

♦上司は、良かれと思うがゆえに「感じ方の違い」に無自覚になる

 

まずは以下の2つの調査結果をご覧ください。

これはメンタルヘルス不調の原因を、従業員本人(部下)側・経営者(上司)側がそれぞれどう認識しているか?の調査です。直接「離職原因」に関して調査したものではないものの、メンタルヘルス不調にせよ、離職にせよ、背景には「職場のペイン」があることは共通なので、離職に至る「職場のペイン」を考察する上でも参考になります。

 

この結果を見ると、

①「上司のフォロー」に関して、部下側・上司側の認識に大きくズレがある

②上司は、つまるところ「本人の性格」の問題と捉える

 

ことが判ります。

上司の立場に立って平たく言うと、こんな感覚ではないでしょうか? 

「いや、俺は部下が成長するように俺なりに一所懸命指導しているよ。俺も他の部下もちゃんとやれるのに、それでメンタルヘルス不調になるのは、まぁ本人の性格の問題としか言いようがないんじゃないかな。」

 

正直、これは昔の私の心のセリフです(^^;

 

上司は「フォローしているつもり」。

でも部下は「フォローして貰っていない」と感じる。

このお互いの認識のズレがやがて大きくなり、メンタルヘルス不調や離職という結果を招いているのです。

これは上司の関りが不十分なんでしょうか?

 

私自身の体験や多くのマネージャーを見てきた中で思うのは、実は上司は本当に一所懸命関わっています。ただし、「可能な限り」。(この「可能な限り」は後で扱います)

いやむしろ、部下を成長させよう成功させようという想いの強い上司ほど、逆に上記のようなズレが起きがちだと感じます。

なぜそんなことが起きるのか?

 

それは、

①フォローの基準が「上司自身の成功体験」に基づいているから

②フォローの焦点が「仕事での成功・成長」に当たっているから

です。

 

若手への「育成責任感や成長期待感が強い」ほど、「私ならこうする、こうすればうまく」という「上司自身の成功体験」を伝えよう、教えようとします。

「成果を出すにはこうするべきだ」という上司自身の成功体験には、「正しさ」があります。

その「正しい」行動を部下ができなかったとき、上司は良かれと思って「なんでできないの?こうすればいいじゃない」と指導します。これが部下を苦しめます。ペインです。

 

部下は、上司が言うからにはきっと「正しい」んだろうなと思いながらも、それが「自然にできない」から悩んでいるし、苦しんでいるのです。でも上司にその悩み・苦しみを分かって貰えない。受け容れて貰えない。部下が本当に「フォロー」して欲しいのは、この気持ちの部分なのです。でも、上司はそこに「無自覚」になりがちです。

なぜなら、フォローの焦点が「仕事での成功・成長」に強く向いているからであり、自分はできたという「成功体験の正しさ」があるからです。

 

実は、ある行動が「自然に」できるかどうか、は、「情動パターン」というある種先天的な個人のパーソナリティに大きく依存します。ある人にとって「自然に気持ちよくできる」ことが、別の人には「苦しみながらよっぽど努力をしないと」できないということが多々あるのです。そして、「情動パターン」は先天的な規定性が強いがゆえに、「なかなか変えられない」部分なのです。

つまり、上記調査で上司が「個人の性格の問題」というのは、一面で正しいのです。

 

一方で、仕事での成果の出し方、プロセスは一つの道しかないわけではありません。

量とスピードで成果につなげる道もあれば、精緻さと成功率で成果につなげる道もあったりします。どのやり方が、「自分にとって自然により良く」できるのか?はその人の「情動パターン」によって異なります。

つまり、上司は「自分の成功体験」は「自分にとって気持ちよくうまく行った体験」に過ぎないということも「自覚」し、部下のパーソナリティや気持ちの受容と、部下のパーソナリティに適したやり方を部下自身が探すことに焦点を当てて「フォロー」する必要があるのです。

 

♦「可能な限り」ちゃんとフォローしている

 

先ほど、「可能な限り」という言葉を一旦脇に置いておきました。

ここからはこれを扱います。

 

以下は以前にも紹介した「成功循環モデル」です。

多くのマネージャーは職場で過ごす時間をどこに多く使っているでしょうか?

 

きっと、「行動の質を高める」ことで「結果の質を高める」ことに圧倒的に多くの時間を割いているはずです。会議で話し合っている議題の多くは、「行動・結果のプランニングとモニタリング」と「改善策の検討」ではないでしょうか?

企業は、より高い価値・成果を出すために人が集まっている集団ですから、当然です。

生産性の向上とは、「より少ない行動でより多くの結果を生み出す」ことですから、我々ビジネスパーソンの時間は最大限「結果につながる行動」に投入されるべきです。

「可能な限り」部下のフォローをしている、というのは極論すれば「結果を出すための行動」に優先的に時間を充てつつ「余った時間があれば」部下のフォローをしている、ということを意味します。プレイングマネージャーが多い昨今だとなおさらこうなりますよね。

 

ところが、そうやって時間の大半を「行動と結果」にフォーカスして投入していくと、よく起こることは

「人間関係の崩壊」。「組織風土の疲弊」。「離職の増加」。「メンタルヘルス不調の増加」。

巡り巡って、結果が向上しにくい悪循環に入っていきます。

 

我々はロボットやAIではなく、人間です。

人間ですから、「正しい行動」をいつでも正しくできるわけではありません。

その代わり、想像以上の変化やイノベーションを起こすこともあり得る。

それが人間です。そして、人間の集まったチームでより結果を生む好循環を回すためには、意図を持って「関係の質を高め」「思考の質を高める」ことに「時間を投資」しなければならなくなっています。意図を持って、若手の部下との「関係の質」を高め、部下の「思考の質」を高める手立てを打たなければならないのです。

なぜなら、自然に雑談が生まれゆっくり関係を育むような「一見無駄な」時間を無くすように様々な仕組みを整えてきたからです。結果として「自然に関係が育まれる」なんてことは、起きにくいのが現在の組織環境なのです。

 

♦では、どうするか?

 

上司が、若手部下との感じ方の違い・パーソナリティの違いに「無自覚」になりやすいところを「自覚的」になることも、関係の質・思考の質を高めるための「一見無駄な」時間を「意図的に」作ることも、意外に難しいことです。 

理由は、

「結果や行動は可視化しやすく、パーソナリティの違いや関係の質は可視化しにくい」からです。

最終的な結果に近い行動の変化は、結果の変化としてタイムリーに表れやすく、

結果から遠い関係の質や思考の質の変化は、結果の変化として表れるのに時間の遅れを伴うからです。

 

私たちの提供しているPSAパーソナリティ診断は精神医学ベースの診断ツールであり、ひとりひとりの「快・不快の感じ方の違い」を可視化できます。さらに、ひとりひとりの心の状態の変化も可視化できます。つまり、人間関係の「ペイン」を感じている程度を可視化できます。そして、「どう関わると相手が気持ち良いのか?」という関わり方も言語化してガイドしてくれます。 

「見えにくく、時間をかけて感じるしかなかった」ものを「短時間で、見えて扱える」ものにするツールです。

そして、このツールを効果的に「使える」ようになるために各種ワークショップ・トレーニングプログラムも開発・提供しています。

 

前回のブログで、「新入社員にワクチンを打つ」お話を紹介しましたが、

受入れ側の上司・先輩も「新入社員の個性を的確に見るメガネをかける」ことで、

お互いの人間関係のペインを低減していくことが図れるのです。